息子よ、ここまで人生で大事なこととして、努力や感謝、忍耐・理性といったことを伝えてきた。
ただ、これらと同じくらい大事で、初めに言っておかないといけないことを伝えておこう。もし君がとても努力家だったり、責任感の強い頑張り屋になっているならば、今から言うことは特に大事なことだ。少しでも自覚があるならぜひ耳を傾けて欲しい。
一方で、少々怠け者かもしれないと思うならば、ここは読み飛ばしてしまってもよい。
まず、君がどうなるのかはまだ分からないが、少なくとも父さんは決して体が頑健な方ではない。そして、決して人並外れた意志の強さがあるわけでもなく、心身がとても丈夫だとは言い難い人間だ。
ただ、責任感や向上心という面では人よりも強いようで、これがビジネスマンとしての強みになったように思うが、結果として、若い時にはかなり無理のある仕事の仕方をしたし、同時によく遊びもした。
ただ、今になって思えば、自分を追い込みすぎて、心身をむやみに消耗したという反省もしている。若い時には徹夜で仕事をすることもあったし、何が何でも結果を出そうとして気持ちを張り詰めすぎたし、大事にすべき家族をないがしろにした時期もあった。
このせいで、重い病気や心の病に罹る一歩手前にいたことは何度もあり、父さんがいま無事でいられるのは、節制の結果でなく偶然の産物に過ぎない。これは、振り返ると恐ろしいことだ。そして、こうした生活のせいで君と出会うのも遅れてしまった。
今になってつくづく思うことは、自分の心身を使い倒したら、その分の癒しを体に施す必要があったということだ。君にとっても、たとえば、ふかふかの布団で思う存分寝ること、休日にゆっくりとお風呂に浸かること、軽くジョギングしたりするのも結果として良い癒しになるだろう。
念のため伝えておくと、自分が得たことの価値を計る一つの方法は、その”何か”を得るために犠牲にしたことを測定することだ。それが金銭であったり、時間であったり、我慢した快楽だったり、得るものによって様々だろう。そして、大学等の受験や仕事でどうしてもモノにしたいプロジェクトで一時的に無理をすることはあるはずで、父さんはそれを大いに奨励する。
ただ、その引き換えにする犠牲の中で、自分の健康や命を犠牲にしてまで得るべきものはないといのが君にどうしても伝えておかねばならないことだ。少なくとも、父さんや母さんにとって、君の健康や命よりも大事なものはない。だから、何が何でも生き抜いてほしいし、ぜひ自分を大事にして欲しい。親よりも先に逝くことほどの親不孝はないとよく言われるが、父さんは君を授かってその気持ちを痛感している。息子よ、これからずっと元気な笑顔を僕たち夫婦に見せていてくれ。
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